東京高等裁判所 昭和35年(う)987号 判決 1960年6月29日
控訴人 被告人 坂本春太郎
弁護人 田中雅
検察官 平山長
主文
原判決を破棄する。
本件を浦和簡易裁判所に差し戻す。
理由
本件各控訴の趣意は、末尾に添えた各書面記載のとおりである。
職権をもつて記録を調査すると、被告人は、昭和三十五年三月四日付原審裁判所に対する弁護人選任に関する回答書をもつて、原審裁判所に対し、国選弁護人の選任を請求したが、同裁判所は、これに対する許否を決することなく、同月二十三日弁護人の出頭がないまま公判を開廷し審理を遂げたことが明らかである。そして、刑事訴訟法第三十六条は、「被告人が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判所は、その請求により、被告人のため弁護人を附しなければならない」旨を定めているが、もとより、裁判所は、被告人が弁護人を選任することができない事由を審査する権限を有し、被告人の請求を容れるときは、公判審理前に弁護人選任の手続をとれば足りるのであるが、その請求を容れないときは、公判の審理に先立つてこれを認容しない旨の通知をなすべきであつて、その旨の通知をすることなく公判の審理をすることは、刑事訴訟法第三百七十九条にいわゆる訴訟手続に法令の違反があつてその違反が判決に影響を及ぼすことが明らかである場合にあたるものといわなければならない。それ故、原審が被告人のなした前記弁護人選任の請求に対する許否を決することなく、弁護人の出頭がないまま、公判を開廷審理した訴訟手続は違法であり、その違法は、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、各控訴の趣意に対する判断をなさず、同法第三百九十七条第一項、第三百九十二条第二項、第三百七十九条及び第四百条本文に則り、主文のとおり判決する。
(裁判長判事 下村三郎 判事 高野重秋 判事 真野英一)